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「お気に入りなら名前でもつけてやれよ」
刀を指差す香菜弥。大抵世に出回っている刀には名が付いているものだが、この刀はいわゆるオーダーメイド、名が無かった。
「いつも『ダセェ名前だな』って言うあなたが何を言いますか!」
「ダセェんだから仕方ないだろ。だからアタイが付けてやろうってんだ」
「いけませんっ。いままでも殲(せん)とか滅(めつ)とか地味な名前つけてるじゃないですか!!」
「格好つけた名前を付けりゃあ良いってもんじゃねぇんだよ。地味でも意味があるから、初めて味が出るんだ。鍛練と一緒だろ。じゃあお前、付けてみろよ」
香菜弥が促すと、対話するかの様に刀を見つめ始める夜影。香菜弥に認めさせてやろうと考え、脳をフル回転させる。
「……………紅雪」
「………………」
「あ!今鼻で笑った!!」
恥ずかしそうにボソッと、自分の考えた名を言う夜影。
しかしその夜影を勝ち誇った顔で見下す香菜弥。
夜影は顔を真っ赤にしながら、今にも瞳を開きそうな勢いで噛みついた。
「まぁ落ちつけ。なんだ『べにゆき』って。世界のどこで紅色の雪が降るんだ
「私、雪が好きなんです。それが紅に染まる……幻想的でいいじゃないですか」
「それこそカッコつけだろ。痛すぎるぜ。」
こうなるコトは分かっていた。香菜弥と夜影のセンスは真逆。
古風かつ力強さを求める香菜弥と、優雅な美しさを求める夜影。それは日常生活の中でも同じであった。
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