孔寺蓮家頭首、香菜弥の過去(その3)

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「それにしても……名前がないですね」 果たし状を裏返してみても、名前らしきものはどこにも書かれてない。 「別に戦う位、名前を聞かなくてもできるだろうが」 「一応礼儀としてですね――」 「うっせーうっせー。わかったよ、気が向いたら聞いてやる」 夜影はよく香菜弥に説教をする。それは口癖の様になっていた。毎回耳が痛く感じていた香菜弥は、耳を塞いで逃げる。 そしてやってきた放課後。同じように男は立っていた。顔は傷だらけ、ほとんどは香菜弥がつけたものだった。 「ほら、早くかかってこいよ。今日も同じ様にのしてやる」 しかし男は、かかってこようとしない。不思議に思った香菜弥は一歩近づく。その瞬間 「孔寺蓮 香菜弥さん!!」 急に気を付けをして、頭を下げる男。ビックリした香菜弥は1歩後退する。 「な、なんだよ」 「好きです!!付き合ってください!!」 突然の発言に、沈黙が辺りを包む。さすがの香菜弥も頭が混乱した様で、しばらく硬直した。 「………は?」 そしてやっと絞り出した言葉がその一言。 いきなり何を言い出すのかと、引き笑いをしてしまっていた。 「最初は憎かったです!!でも、その、なんというか、触れ合ううちに、あなたの凛とした姿に惹かれて、す、好きになってました!!だから、付き合ってください!!」 再び頭を下げる男。あっけに取られた香菜弥は、その場に立ちつくす。しだいに、笑いがこみあげてきた。
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