孔寺蓮家頭首、香菜弥の過去(その3)

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「なぁ……」 不意に男が話しかける。香菜弥は返事をせずに体を少し後ろに倒して、目線だけを向ける。 「この前のだけど……や、やっぱり俺のコト……ムカつくか…?」 「……あぁムカつくな。今でも殴りたいくらいだ」 その言葉に、ビクッと体を震わせる男。 しかし香菜弥は腕を頭に回して空を見上げる。雲の流れをしばらく眺めた後、言葉を続ける。 「でも……なんだろうな。嫌い……じゃねぇよ。意味が分かんねぇ。何言ってんだろうな。ムカつくのに嫌いじゃないって」 香菜弥は分からなくなっていた。一緒にいると何故か掻き乱される。今だってこうして一緒にいるのに、嫌な気分じゃない。 何故か……。 「ならいいじゃないか」 「何が」 男は再び向き直り、香菜弥を見据える。 「付き合ってもいいじゃないか。ムカついてもいい。嫌いじゃないなら、それでいいじゃないか。」 風が吹き抜ける。雲が流れ、隙間から太陽が射した。 「なんでだよ…」 「え?」 「何でアタイにそんなに関わる。こんなにボコッてんのに、アタイの何がいいんだ」 香菜弥は分からなかった。今までそんなコトを言うヤツなんていなかった。今までも、何回も何回も挑んできている。 香菜弥が気になっているのも、その影響があった。 「前も言っただろ?君の…香菜弥の戦ってる姿が好きなんだ」 こんなコトを言われたコトもない。ムズムズする。 ムカつく……? いや、なんだろうこれは……。 「だからって…Mって訳じゃないぞ!?その…なんだ。いずれは君には勝つつもりだ」 そして何より、怯みがなく、真っ直ぐ。 瞬間、香菜弥は気づいた。 あぁ、そうか。自分はコイツのコトが……。
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