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「なぁ……」
不意に男が話しかける。香菜弥は返事をせずに体を少し後ろに倒して、目線だけを向ける。
「この前のだけど……や、やっぱり俺のコト……ムカつくか…?」
「……あぁムカつくな。今でも殴りたいくらいだ」
その言葉に、ビクッと体を震わせる男。
しかし香菜弥は腕を頭に回して空を見上げる。雲の流れをしばらく眺めた後、言葉を続ける。
「でも……なんだろうな。嫌い……じゃねぇよ。意味が分かんねぇ。何言ってんだろうな。ムカつくのに嫌いじゃないって」
香菜弥は分からなくなっていた。一緒にいると何故か掻き乱される。今だってこうして一緒にいるのに、嫌な気分じゃない。
何故か……。
「ならいいじゃないか」
「何が」
男は再び向き直り、香菜弥を見据える。
「付き合ってもいいじゃないか。ムカついてもいい。嫌いじゃないなら、それでいいじゃないか。」
風が吹き抜ける。雲が流れ、隙間から太陽が射した。
「なんでだよ…」
「え?」
「何でアタイにそんなに関わる。こんなにボコッてんのに、アタイの何がいいんだ」
香菜弥は分からなかった。今までそんなコトを言うヤツなんていなかった。今までも、何回も何回も挑んできている。
香菜弥が気になっているのも、その影響があった。
「前も言っただろ?君の…香菜弥の戦ってる姿が好きなんだ」
こんなコトを言われたコトもない。ムズムズする。
ムカつく……?
いや、なんだろうこれは……。
「だからって…Mって訳じゃないぞ!?その…なんだ。いずれは君には勝つつもりだ」
そして何より、怯みがなく、真っ直ぐ。
瞬間、香菜弥は気づいた。
あぁ、そうか。自分はコイツのコトが……。
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