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「名前、なんてしようか」
小さな小さなそれを見て、珍しく柔らかな表情を見せる香菜弥。
こんなにも軽いものなのか。実感するにはまだ少しかかりそうだった。
清々しい春の風が吹き込み、香菜弥の頬を優しく撫でた。数か月の間に髪も少しだけ伸びた。
またすぐに切らなければならない。今までショートヘアーに馴染んできた香菜弥にとって、髪が長くなっているコトにはかなりの違和感があった。
「香菜弥、国語得意だろ?お前が決めろよ」
「そうですよ香菜弥嬢。あなたにそっくりなんですから」
拳児と夜影も見下ろす。あれほど香菜弥が苦手意識をもっていたのに、まさかこんな時が来るとは、2人も想像していなかった。
「あぁ?どこがだよ…。ガキなんてどれも一緒に見えるだろ」
「そ、そういうコト言っちゃいけません!!ほら!早く決める!!」
夜影が急かすのに怪訝な表情を見せながらも、考え込む香菜弥。
夜影はそれを見て、満更でもないらしいコトを感じていた。
「じゃあ……須(すべ)からく香り美しく……香須美なんてどうだ?」
「おぉ…。珍しくキレイな名前つけますね」
「なんたってアタイの子なんだ。当たり前だろ。なっ、香須美」
「なんだかんだで親バカじゃないですか…」
小さな香須美を抱え上げると楽しそうに笑うから、それを見て、香菜弥も自然に表情が緩んだ。
自分の体からこんな大きな命が生まれてくるなんて、考えられないくらいスゴいコトだった。
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