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そして、香須美が3歳になって最初の七夕。
最近は字も少し書ける様になってきて、喋れるようにもなった。
「香須美、これに願い事を書いて吊るすんだ」
「うんっ!」
この歳にもなると、香菜弥を写し出した様にそっくりに見えてくる。赤い瞳とブロンドヘアーは母親譲り。
無邪気にペンを動かした後に香菜弥に駆け寄って、短冊を差し出す香須美。
「書いたよっ」
「何々……いもうと、が…ほしい…です……?……香須美、妹が欲しいのか?」
目を丸くした香菜弥に、香須美は頷く。1人っ子だった香菜弥が『兄弟が欲しい』と今まで思わなかった訳ではないが、まさかの願い事に驚いていた。
「1人で寂しいのか?」
「遊び相手…いないから…」
香菜弥の様子を伺う様に、俯きがちになる香須美。
「そうか」
「……ダメ?」
「ダメじゃないさ。じゃあこれ、一番てっぺんに吊るしておこうな。願いが届くように」
香須美の頭を撫でると、くすぐったそうに目を細めた。
そしてその日の夜。
「香須美がそんなコトを?」
寝室のベランダで、香菜弥と拳児は酒を飲み交わしていた。
ここから一階の庭に、笹の葉が立て掛けてあるのが見下ろせる。
月明かりと夜空満点の星で、青白く明るい。
初夏の涼しい風が2人の肌を包んだ。
香菜弥は、杯に注がれた酒を一気に飲み干す
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