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「………っ」
「っ!!拳児!!」
息があった。駆け寄り、何かを言う拳児の口元へ香菜弥は耳を傾ける。心臓が異様な程に高鳴る。嫌な汗が止まらない。
「す、すまん……香菜弥の旦那ともあろうものが……」
「わかったから!!喋るな!!」
ボソボソと声を絞り出す拳児の手を握る。これほど不安な気持ちになったコトはない。
悪い方向に考えたくない。考えたくないのに考えてしまう。
「でも………お前と、娘が……無事で、よかった…」
「うんっ…うんっ。もういい、喋るな…」
自然と涙が流れた。誰にこんなコトをされたかなんて関係ない。今はただ生きて欲しいと思った。
「娘にこの姿は……」
「見せるもんか……」
「そうか…。香菜弥………」
「ん……?」
「父親らしいコト、してやれなくて…ごめんな……。お前の泣いてる姿……初めて見た…。かわいい、じゃないか………。」
「な、なんだよ…。今更なんだよ…。そんなコトどうだっていいんだよ……」
拳児は何故か微笑んでいた。そんな顔は見たくなかった。理解できない。そんなコトは今聞きたくない。
「香菜弥……自分を、見失うな……。強いから、こそ……見えないコトもある……」
「やめろ……お願いだ…やめてくれ……」
光が消えていくのが分かった。消える。更に手を強く握りしめる。温める様に。消えない様に。
「………お前と会えて……よかった……娘達を……頼む…」
しかしそれは儚く、手から砂の様に零れ落ちた。手が顔を伝い、そして力が抜ける。
香菜弥の顔に、ベットリと血がついた。
信じられない。信じたくない。
夢であってほしかった。
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