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調べればすぐわかるコトだった。
孔寺蓮家に恨みを持っている連中は多い。
街でも有名なヤクザの一味が、香菜弥が散歩に出かけるのを見計らって、拳児に「香菜弥とその娘を誘拐した。無事に返してほしければ、指定の場所まで来い」と脅しをかけたのだった。
心配した拳児は1人で飛び出し、罠にかかった。
単純ではあるが、大切なものを奪われた時の心理状況は予測し難い。
「……そうか」
「香菜弥嬢をやるのは難しいと考えたんでしょう。それで手始めに拳児さんを……。集団でのリンチだったそうです」
「もういい、わかった」
立ち上がり、ベランダに出る。こんな時に限って空は澄みきって、嫌になる。
「香菜弥嬢……本当にやるつもりなんですか?」
「二言はない」
近日の深夜。香菜弥はヤクザのアジトに乗り込むつもりだった。
場所は明らかになっている。あとは乗り込むだけ。
容赦はするつもりはない。しばらく鈍っていた感覚が疼きそうだった。
「最近、香須美嬢と由香莉嬢とお話もしなくなりましたね………。2人とも寂しがっています…」
「………………。その話はやめろ」
「………はい」
香菜弥の返事に夜影は俯く。
拳児が死んでから、香菜弥はずっと部屋に閉じ籠りきりだった。
夜影とも数回言葉を交わすだけで、めっきりと外との接触を絶ってしまっていた。
「話はそれだけか」
「はい…」
部屋を後にする夜影。廊下は静まり返っていた。
「香菜弥嬢……拳児さんの言葉をお忘れなきよう…」
呟きながら絶影に手を置く。
この件が終われば以前の香菜弥に戻るコトを願って。
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