孔寺蓮家頭首、香菜弥の過去(その5)

6/6
前へ
/258ページ
次へ
調べればすぐわかるコトだった。 孔寺蓮家に恨みを持っている連中は多い。 街でも有名なヤクザの一味が、香菜弥が散歩に出かけるのを見計らって、拳児に「香菜弥とその娘を誘拐した。無事に返してほしければ、指定の場所まで来い」と脅しをかけたのだった。 心配した拳児は1人で飛び出し、罠にかかった。 単純ではあるが、大切なものを奪われた時の心理状況は予測し難い。 「……そうか」 「香菜弥嬢をやるのは難しいと考えたんでしょう。それで手始めに拳児さんを……。集団でのリンチだったそうです」 「もういい、わかった」 立ち上がり、ベランダに出る。こんな時に限って空は澄みきって、嫌になる。 「香菜弥嬢……本当にやるつもりなんですか?」 「二言はない」 近日の深夜。香菜弥はヤクザのアジトに乗り込むつもりだった。 場所は明らかになっている。あとは乗り込むだけ。 容赦はするつもりはない。しばらく鈍っていた感覚が疼きそうだった。 「最近、香須美嬢と由香莉嬢とお話もしなくなりましたね………。2人とも寂しがっています…」 「………………。その話はやめろ」 「………はい」 香菜弥の返事に夜影は俯く。 拳児が死んでから、香菜弥はずっと部屋に閉じ籠りきりだった。 夜影とも数回言葉を交わすだけで、めっきりと外との接触を絶ってしまっていた。 「話はそれだけか」 「はい…」 部屋を後にする夜影。廊下は静まり返っていた。 「香菜弥嬢……拳児さんの言葉をお忘れなきよう…」 呟きながら絶影に手を置く。 この件が終われば以前の香菜弥に戻るコトを願って。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3531人が本棚に入れています
本棚に追加