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――――――
「一紀、大丈夫?ごめんなさい、うちの母さんが」
「いや…俺もバカだった。まぁ……それを覚悟して聞いたんだけど」
道場を出て、一紀と香須美は息をついた。あれほどの殺意を持った香菜弥を初めて見たからだ。
「今日のコトは忘れる。悪かったな」
「あの…お待ちください。稲葉様」
そう言い残し孔寺蓮家を去ろうとした一紀を、白いひげを蓄えた執事が引き止める。
一紀と香須美は眉をひそめる。
「どうしたの?」
「実はさっきの……香菜弥様の旦那様…香須美様、由香莉様のお父上のコトで」
「何か知ってるの?」
「はい……。香菜弥様の旦那様、拳児(けんじ)様は既に他界されております」
先程も言った通り、香須美はそのコトだけは知っていた。実際には記憶にほとんど無い。ぼんやりと覚えているだけだった。
「詳しく聞かせて。母さんに何があったのか」
「おい香須美」
「何よ。親のコトを知りたいのは子供として当然でしょ?それに、今の母さんにはそんなコト聞けそうにないし」
実際、今まで香菜弥から娘に対して、父親のコトを話そうとはしなかった。
それは忘れていたのではなく、香菜弥自身が話そうとしなかったからである。
香須美も性格的な面もあり、今まで父親のコトなど気にするコトはなかった。由香莉も同等。
それが今回の件で反動となり、香須美の探求心を突き動かしたのでいる。
意思をくみ取ったのか、執事はゆっくりと口を動かし始めた。香菜弥の過去について。
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………
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