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「ったりめーだ。アタイから隠れれると思ってんのか。つーか、その呼び方やめろ。癇に障る」
「そういう訳にもいかないんです。私は一応雇われの身。旦那様にも、香菜弥嬢が無茶をしないようにって監視兼、お世話係を任せられているんですから。お仕事しないと追い出されちゃいますよ」
「何言ってやがる。アタイがそんなコトさせねぇよ。……って、また親父か」
「お嬢様で不良少女。こんな破天荒な人、全国のどこを探しても香菜弥嬢しかいませんよ。旦那様も呆れていらっしゃいます。もう18で、良い歳なんですから」
舌打ちをする香菜弥の下へフワリと音もなく降り立ち、ノビている輩を見下ろす。
夜影は孤児であった。幼い頃に捨てられ、行き場の無い子供であった。
外で寝泊まりを繰り返し、ゴミを漁っては命を繋げていた。
それが理由で公園で苛められていた彼女を、香菜弥が助け、連れ帰ったのだ。
名前の無かった、いや、正確には忘れてしまっていた彼女に、香菜弥は夜影という名前を与えた。
剛が香菜弥であるなら、夜影は柔。香菜弥が朝に煌めく光であるなら、夜影は夜に射す影であるコトを表す様に。
武道家としても有名であった孔寺蓮家。そのため、香菜弥は幼少期から日本文化である国語の知識を叩きこまれていた。
言葉の中に意味を見いだし、名前を付けるコトは特に、得意分野であった。
それ以来、2人はずっと一緒にいた。つまりは幼馴染である。
共に育ち、共に競い合った、かけがえのないライバルでもある。
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