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「失礼します。」
美歌は和室の襖を開けて中に入っていった。
「遅かったな…どこへ行っていた?」
床の間を背景に、重厚なテーブルを挟んで美歌の父が座布団の上に正座で座っていた。
美歌の父は端整な顔をしている上に人を寄せ付けないような、ピリッとしたオーラを纏っている。
父様のこのオーラ、かなり苦手なのよね…
美歌は心の中で呟いた。
「すみません。勉強の息抜きに散歩に行っていましたので…」
美歌は何の抑揚も付けずに、ただ父に行ったことのみを言った。
「美歌、そこに座りなさい。」
父は美歌をテーブルを挟んで反対側に座らせた。
「美歌、お前に縁談だ。良縁談だぞ。相手はお前と同じ特進科体育コースの2年美作陽人(ミマサカハルト)君だ。」
父は美作家から送られてきたであろうお見合い写真を、美歌に見せた。
「父様…まだ私は高校1年ですから早すぎます。それに、以前にもお断りしたはずです。」
「美歌…会うだけでもいい。とにかく、今週末に会食だ。必ず開けておくように。」
父は美歌に強く言って、席を立った。その言葉には、有無を言わせぬ強さがあった。
美歌は何も言わず、相も変わらず無表情のままで横目で父が出ていくのを見た。
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