一章

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 文句なしの快晴だった。  季節は既に真夏を迎え、塀の付近にある木陰では、セミ達が最期の勇姿を見せつけようとするかのように鳴き続けている。  そんな自らの生命を燃やしながら輝く彼らの姿が目に眩しい――なんてわけはなく、ただひたすらに鬱陶しいだけだった。  親の仇と言わんばかりに陽光を振りまく太陽に降伏の白旗を掲げたくなってくる、そんな青空が一面に広がった昼日中。  俺は、というか全生徒が、夏休み前の終業式をするべく校庭に駆り出されていた。 「……科学が発展した現代において――」  雛壇の上で語られる校長の大変ありがたい御高説。クラスメート曰く〝無駄話〟が始まってから早くも二十分が経とうとしていた。  涼しげな頭は陽の光を反射して非常に眩しく、振るわれる熱弁は周りから響く蝉の鳴き声に負けず劣らず俺の不快指数を上げるのに一役も二役も買っている。  加えて「儂が子供の頃は」とかいう、意味の分からない理屈のせいで、ARBTA《全自動体温調節装置》も使えないときたもんだ。  それは半世紀前の話ですよー、と言ってやりたいね。もちろん、そんな勇気はないんだが。 「暑ぃ……」  愚痴を一つ。  校長が言葉を切ったタイミングで、ふと辺りに眼を向ける。どうやら壇上横の教員も込みで、誰もが同じ心境にあるらしい。  幾人かは欠伸を噛み殺し、幾人かは暇を持て余して電子板を弄り、また幾人かは暑さに呻きながら首元を手で扇いでいる。  行動にささやかな違いはあれども、暑さと校長に苛立ちを募らせる皆の、心に抱く想いは(恐らく)ただ一つ。  ――早く終わってくれよ……。  と、嘆いてはみても所詮は心の声。  太陽の熱気にもめげず、夏空の下で延々と長広舌をかます校長に届くわけもない。 「……からこそ、今を生きる君達は――」  周辺から舌打ちやら呪詛まで聞こえてくるようになったが、どうやら似非演説の終わりはまだまだ遠そうだ。  結局、見かねた教頭に校長が引き擦り降ろされ、その後を引き継いだ学年主任の投げやりにも思える終了の挨拶が行われたのは、始まりから一時間後のことだった。
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