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吉岡(よしおか)は乾いた唇を舌で舐めた。いつの間にか全身が汗にまみれている。
今回の任務は、彼が一部隊を率いるようになってから最も重要なものだった。失敗は許されない。鍛え上げられた彼の双肩には、かつてない重責がのしかかっていた。
潮の匂いが混じった風が、彼の鼻先を冷たく吹き抜けていく。今はあまり使われていない、都心からほど近い場所にある港に、吉岡率いる二十人の部隊はいた。彼らは夜の闇に紛れて、息を潜めている。波音だけが静寂の中に響いていた。
銃撃戦になることも想定されており、全員が武装していた。サブマシンガンが基本で、更に各隊員の役割によって防弾シールドや催涙ガス弾、狙撃用ライフルなど、それぞれ装備が違う。
彼らは特殊な任務を遂行するために結成された、本来は存在しない、名前すら公には明らかになっていない部隊だった。
今晩、この人気のない港にて重要な取引が行われるという情報が、彼らと同じ組織に属する別の部署からもたらされていた。
かなり信憑性が高い情報という触れ込みだったが、吉岡は未だに半信半疑だった。取引の対象があまりにも危険なもので、現実味がないというのもある。
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