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いくら待っても、港には誰も現れなかった。既に時刻は午前二時を回っている。もう六時間近く、吉岡たちは港の至るところに身を隠し続けていた。
やはり情報は偽物だったのではないか。隊員の間にも倦んだ空気が流れ始めた時、一人の隊員が声を上げた。
「沖に船影」
港の沖合に船舶らしき黒い影が現れた。影は徐々に港に近づいてくる。吉岡は標準装備の暗視ゴーグルを使用した。波間に小さな漁船が揺れているのが確認できる。
今はほとんど使われていない海運の為の港で、こんな夜中に漁船が近付いてくるはずはなかった。照明も用いずに航行しているのもおかしい。全員が状況の異様さを把握した時、続けざまに状況が動き出した。
「こちらに車両が近付いてきます。黒いバンです」
部下の報告を、吉岡は耳に取りつけた無線機越しに聞いた。全員に聞こえたはずだ。隊員の間に、にわかに緊張が走った。
黒いバンは吉岡の潜んでいた場所の前方二十メートル、積み荷を降ろすためのスペースで停車した。吉岡は身を隠している倉庫の影から、悟られないよう慎重に様子を窺った。
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