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黒いバンは、大体の想定通りの場所に停車している。作戦に変更は必要なさそうだった。黒いバンから人は降りてこない。窓にはスモークがかかっていて、中に何人乗っているかは把握出来なかった。
どうやら取引の情報は本物だったらしい。それはつまり、これから取引されるものの情報も正しいという可能性が高かった。そんなものが闇で取引される現実を思い、吉岡の背中に冷たい汗が流れた。
「全隊員に告ぐ」
出来るだけ平静に吉岡は言った。
「予定通り、取引が始まったところを制圧し、目標を確保する。発砲は許可する。合図を待て」
取引に関わった人物を捕捉し、尋問にかけて取引の実態を暴くのが本来のやり方だった。しかし今回に限っては、取引に関わった人物の生死は問題にされていない。
生け捕りを優先するあまり、万が一にも目標の確保に失敗することがあってはならないからだ。いつもなら鷹揚な姿勢で静観を決め込む上層部も、今回だけは目の色を変えている。
それほどまでに、今回の取引の材料は危険なものだった。露見すれば日本だけの問題では済まされない。国際社会での日本の立場すら、揺るがしてしまいかねないものだった。
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