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緋月と別れてから約5年後。
もう、二度と会うことも無いだろうと思っていたのに……何故か、緋月は俺の元へ帰ってきた。
あの胡散臭い笑顔を携えて……。
「で、なんで急に帰ってきたんだ……?」
「おや。カノン様は、僕に会いたくはなかったのですか?」
「え、いや……その……」
「僕はお会いしたかったです。やはり、僕はカノン様のお側で働く方が合っているようなので、帰ってきてしまいました」
自室で荷物の整理をする緋月を後ろから見つめて、俺は嬉しさを噛み締めた。
目の前に緋月がいる。
ずっとずっと、会いたくて堪らなかった緋月が俺の元に帰ってきたんだ。
嬉しくて嬉しくて、仕方無い。
でも、それを緋月に悟られたくはないから、必死に平静を装った。
「何度も訊くが、本当に会社の方はいいんだな?」
「えぇ。神山が、あとはしっかりとやってくれることでしょう。それに『もう、何があろうと僕は知りません。今後のことは……神山、お前が全てどうにかしてくださいね?』と釘を刺して出てきましたし」
「…………そうか」
神山も苦労人だな。
こんな腹黒い奴が上司で……。
「それはそうと、カノン様。僕がまた、此方で働くことは可能でしょうか?」
「そうだなぁ……とりあえず、お前の履歴書や契約書を一から作り直すことから始めるか。以前のものは破り捨ててしまったからな」
「一から作り直す、ということは……」
「あぁ。仕方無いから採用してやる。勿論、俺の専属執事としてな」
少し意地悪をしてやった後にニヤリと笑みながら云えば、緋月は嬉しそうに笑った。
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