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「……カノン様」
「緋月……っ?」
泣きじゃくるカノン様を優しく抱き締めながら、僕はカノン様の頭を撫でた。
「カノン様が気に病む必要はありませんよ。元はと言えば、僕が悪いのですから。カノン様は何一つ、悪くはありませんよ? それに、僕の手の傷も既に癒えています。確かに、抜糸後は痛みが暫く続きます。でも、そんな痛みは僕にとって何て事もありません。僕は、カノン様がこうして泣いてしまうことの方が、ツラくて苦しいですよ」
「緋月ぃ……っ」
「ですから、ずっと……笑っていてください。それだけで、僕は幸せです」
柔らかな髪を梳くようにして一房掬い上げ、それに軽く口付ける。
ずっと、ずっと、触れたかったぬくもり。
ずっと、ずっと、感じたかった存在。
「カノン様。少し、髪が湿っていますね。いけませんよ、きちんと乾かさないと」
「ん。ごめん、なさい……」
「肩、冷えてますよ。夏と言えど、油断してはいけません。今日はもう、お休みになってください」
「あ……、う、ん……」
カノン様の冷えた肩をさすりながら言うと、カノン様は寂しげな瞳を僕に向けた。
「カノン様? もしかしなくても、お寂しいのですか?」
「あ、いや…………」
「素直に仰っていただければ、僕が叶えて差し上げますよ」
「…………」
「久し振りに、僕と一緒にお休みになりますか?」
そう訊ねると、カノン様は躊躇いがちに小さく頷いた。
その行動に、僕は自然と頬が緩むのが分かった。
嗚呼……
本当に、この御方には敵わない。
一生、僕はカノン様に翻弄されながら過ごしていくのだろう。
でも、それもまた……嬉しくてならない。
というか、僕は……
カノン様が存在しているだけで、幸せなんだ。
これ以上の幸せは、他には無い。
僕の幸せは、カノン様。
それしか思いつかない。
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