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「貴方が言う様に、世界が言う様に、私は確かに強欲王子そのものでした。全てを欲しました。全てを手に入れました。手に入れてはならないものまで…。
私が最後に欲したもの。それは、…命です」
それは、オルトーの懺悔だった。後悔と苦渋に歪む男の顔に、もはやピエロの微笑みは消え失せていた。
「そんな馬鹿な。悪魔と言えど、命そのものを動かす事など出来ないはずだ」
オルトーは続けた。
「私には心臓がもう一つあるのです、つまり…」
「…【双心症】!?…何と言う事を…」
キティには覚えがあった。何故ならそれは、自身の病と対を成す、原因不明の心臓病だからだ。
「キティ王子、貴方のそれは…【硝心症】ですね?」
キティはいつの間にか、再び影を睨みつけている自分に気付いた。悪魔の知恵に翻弄される、鏡の様なもう一人の双子の自分に、あの頃を重ねていた。
男の子として生まれてしまった自分…。
凶器の様に曲がった父の腕…。
自分をかばう度に、自らを責める母…。
そして、母と見た美しく小さい花…。
そのどれもが、傷跡であり、思い出であり、生きてきた証だった。
ふと窓を見る。
ガラスに映る自分。その背後には太陽が、世界を焦がしながら沈んでいく。
まるで、命を削り取る様に…。
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