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「腑に落ちない事が一つだけある。交換条件の話だ。なぜ金が必要なのだ?命と引き換えに、地位と名誉は失ったが、地に落ちる程ではなかったはずだ」
キティは再びオルトーを呼び付けていた。検査結果が出たのだ。双心症である事は間違いなかった。そして、キティ自身の病が進行している事も。
「〈パンドラの箱〉というやつです。開けてはならないものを開け、その代償に私は全てを失いました。しかし、だからこそ見えるものがあった。見つける事が出来たのです。この眼を潰してもなお、ようやく光を感じる様に」
オルトーには、笑顔が戻っていた。ピエロのそれではない、本当の笑顔が。キティはその事に、不思議と安心感を覚えていた。
「…〈パンドラの箱〉には、最後に《希望》が残されていたという…」
その笑顔は、どこまでも《希望》の顔をしていた。オルトー自身にとっても。そしてまた、キティにとっても。
「これが、私の《希望》です」
オルトーはそう言うと、古い日記帳を取り出し、キティへと差し出した。古びたというよりは、元々が古い物だったのだろう、その貧しさが窺える。
その内容は、日々の出来事に交えて、自身や他者、理不尽な社会に対しての、辛辣とも言える批判や悲哀が記されている。風変わりなのはその形式で、日記というよりも手紙の様な語り口だった。
「キティ…?どういう事だ」
「貴方の事ではありません。そして友達でも…。なって頂けませんか?彼女と本当の友達に。貴方になら出来るはずです。これは取引ではなく、私の最期の祈りです。
私の娘…アンナ。
貴方と同じ【硝心症】です」
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