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半月状の天窓から光が差し込み、さながら絵本の世界に迷い込んだウサギの様だった。孤独感に目を赤くして、ぼんやりと瞼を閉じるいつもの夜。馴れたはずの原色の光景が、水滴を零した様に、ほんの少しだけ淡く見えるのは何故だろうか?
休息は癒しの時間ではなく、落ち着きを取り戻す為のものだと言い聞かせてきた毎日は、この夜で終わりを迎える気がしてならない。全てはあの男が、悪魔が?…いや、自分が、母が?父が?もっと…もっと……。
キティは気付いた。原色の絵本の世界が、仄かに淡く色付いて見える理由に。
確かに零れていたのだ。この、孤独なウサギの赤い瞳から、音もなく、ただ静かに…。それは、美しく透明な涙の雫だった。
キティはようやく眠れたのだ。痛みが思い出に変わる温もりは、あの日、母と見た美しく小さい花に似ている。その優しさを、これからはそっと抱きしめていよう。変わらぬものを変わらず、当たり前のものを当たり前に。出来るはずだ、自分なら。
何故ならば、キティ…母が付けてくれたその名前は、美しく小さい花の温もり、そのものなのだから…。
とめどなく溢れる涙の海は、半月状の月明かりに照らされ、さざめく波に幾度も幾度も反射して、夢の様にきらきらと輝いていた。
“ 僕らは決して
生まれるべくして
生まれたわけじゃない
僕らは決して
生きるべくして
生きてるわけじゃない
けれど…… ”
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