2人が本棚に入れています
本棚に追加
沈みかけた太陽が、王の一室を容赦なく晒していた。刃の様に長く鋭く映しだされた自分の影を睨みつけるキティ。
その声は、まるで地の底のような闇の臭いがした。
『まじないを唱えるのが礼儀なんだが、まぁいい。それよりお前の願い通りなはずだ、違うか?』
姿形は無いものの、影が不自然にうごめく度に、鈍い声が発せられた。
『どん底にいたお前を救ったのは誰だ?…いや、これはあくまで契約だったな。オレとお前は、どこまでも対等でしかない』
【対等】という言葉に、厳しく反応するキティ。苛立ちが加速度を増す。
「いいか?センチメンタルで言ってるんじゃない。命を無くす事は圧倒的な『無』でしかないんだ。ゼロだ!
[天国で幸せに]だと?
[向こうで待っててくれ]だと?
そんなもの在りはしない。絶望も希望も、その概念さえもだッ!」
『無神論者か。よくオレが見えたな。王の意志は、神の下にあるというのに。いや、だからこそ見えたのか。
キティ…。
キティ・ファンベル王子。
全てを無くしていたお前は、絶大な富と権力を手に入れた。その代償として無に還るのだ。それは、対等以外の何者でもない。
そう、契約には代償が必要だ…。絶望の代償がな…』
最初のコメントを投稿しよう!