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その男は、とてもみすぼらしい格好をしていた。
言うまでもなく、公邸の入口を通過しようとしただけで、警備兵に止められたと苦笑した。
「こんな成りですからね」
男はまた、自虐的に笑った。
「ところで私も、忙しい身分なんだが」
キティは気を急いて、男に詰め寄った。
「はい。僭越ながら、キティ・ファンベル次期国王陛下…。
私も、貴方と同じ契約者です。つまり、絶望の代償を払わされた者です。
ロット・ピピッチ・レルクル・ペンゼ…そのどれかは分かりませんが、悪魔と魂の取引をしました」
「……」
キティはコツコツと静かに足音を響かせながら、警戒の視線を投げ掛ける。
「ところが悪魔は、軽口を叩いた詫びだと言い残し、こうしてキティ・ファンベル次期国王陛下…貴方との出会いに至ったわけです」
「キティで良い」
「は?」
「キティで良いと言っている」
いつの間にか足音が止んでいた。
「光栄です…。キティ王子」
いつの間にか笑みは消えていた。
「調べさせてもらうぞ。オルトー・フランク、
…元・次期国王陛下」
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