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由緒正しき家柄であればある程、男子の誕生は喜ばしいものだろう。後継ぎはその家系の未来に、富と繁栄を約束してくれるからだ。
ただし、その逆もある。家柄を継ぐ必要のない家系。
つまりは、使われる側の人間だ。
その家の父親は、町の外れの小さな小さな農場を営んでいた。その農場もまた、その土地の大地主に頭を下げて下げて借りた物で、稼ぎの大半は搾り取られるために、日々の儲けは大豆とミルクとほんの少しの果物を買うので精一杯という生活だった。
そこに男子が生まれたとしても、もちろん力仕事で稼ぎの足しにはなるかもしれないが、こういう家柄の場合、女の子の場合のそれとは圧倒的な差があるのだ。
なぜならば、世界を問わず、
女の子は高く売れるからだ。
だからこそ子供を授かったと聞いた時は、その家の父親にとっては、それが最後の希望の光だった。
親が子を思う愛情とは、人として基本的な生活が出来た上で成り立つものだと、その家の父親はその家の母親に言い聞かせた。
飢えよりも、子を思う母性を選ぶ母親は、父親にすがりつき子を護ろうとしたが、それでも父親の力には逆らう事は出来なかった。
せめてもと、その家の母親は生まれてくる子供のために、農場の隅にひっそりと咲く、美しく小さい花の名前を付けた。
“キティ”
生まれてきたのは男の子だった。
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