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「この通りです!」
私はカーペットにひれ伏した。
癪だが、プリンの為なら
背に腹はかえられまい。
「しょうがねーなー。」
千鶴は私の態度に満足したのか、プリンを渡してくれる。
「きゃー!ありがとう!
スプーン持ってこなきゃ。」
私が台所に駆け降りようとすると
「あ、使い捨てのスプーン入れてるぞ。」
千鶴がそう言って紙袋をあさりプラスチックのスプーンを見せる。
「マジ?千鶴気ぃ効くぅ!
一緒に食べよーよ。」
私は上機嫌で白い小さなテーブルにプリンを2つ並べ、千鶴に笑いかける。
「うん。」
千鶴がポツリと答えた。
あれ?やけに素直じゃん。
それになんか…
「あんたどうしたの?顔赤いよ?部屋暑い?」
私は窓を開けようと立ち上がる。
「いや、そういう訳じゃ…。」
千鶴が手を振り否定するが、
どう見たって頬が火照っている。
「締め切ってたもんねぇ。
確かに空気こもってるわ。」
そう言いながら窓を開けると乾いた風が部屋に吹き込んだ。
「さ、食べよ食べよ。」
千鶴と向かい合って座る。
「あのさぁ…。」
プリンをつつこうとした瞬間、千鶴がオズオズと口を開いた。
「ん?」
「お前今、好きな奴とかいないの?」
はぁ?今更何言ってんだこいつ?
「好きな人できないからバーチャルにのめり込むんじゃん。
まぁ、強いて言えば
一ノ瀬伊吹が一番好きかな。」
デヘヘと笑って、点けっぱなしのテレビを見る。
白い肌に、スラリとした体。色素が薄いサラサラの髪に、小さな顔…。テレビ画面には、乙女ゲーム『湊学園高等部恋愛事情』の中のキャラクター、一ノ瀬伊吹が映ったままになっていた。私の心のオアシスだ。
「ゲームかよ!」
千鶴は頭を抱えた。
「そりゃ私だって、リアルな恋愛してみたいよ。でも幼なじみのあんた以外、まともに話せる男子もいないし。」
私は唇を尖らせて、プリンを口に運ぶ。
手作りのカラメルが、甘いプリンにほのかな苦味を与えている。
ん~。いつ食べても美味!
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