9897人が本棚に入れています
本棚に追加
そこを直接本人に訊ねるのは野暮である。なので止まってた久音の横を通り過ぎ、僕は歩き出した。
「じゃあね! 二人とも!」
心が変わらぬテンションで別れの挨拶をしてきたのが聞こえた。僕は振り返る事なく、そのまま手だけを振って応える事にする。
「じゃーね」
「え、えぇ……また明日」
──戸惑う久音の声の真意は、この後すぐに聞く事になる。彼女が何を思って僕を追ったのか。そして、何処を見ていたのかを。
二人並んで、浅松さんが待つ車の方へ歩き出した。
◆◇◆◇◆
「お嬢様に……これはこれは、臼井様。お仕事お疲れ様でございます」
「ホントよ。今日は私の動きが六割近くでしたわ」
「よして下さいよ浅松さん。久音の言う通り、僕は大した事はしてませんから。送って貰えるのすら甘えすぎかな? と思ってるくらいですし」
浅松さんが車の扉を開けてくれたので、二人とも後部座席に乗り込む。扉がバタンと音をあげて閉まった直後、浅松さんは運転席に乗りながら会話を続行してきた。
「……お嬢様ももっと素直になられては如何ですか?」
「わ、私は前より素直に生きてるつもりですわ!」
「まだまだです。もう毎日愛を囁く程の事をしなければ」
「浅松!!!?」
「……よく君たち、そんな会話本人の前で出来ますね……度胸があるというか何というか」
最初のコメントを投稿しよう!