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平然と会話する二人を見て戦慄する。僕だったなら心の前でこんな会話はできなかっただろう。
「もうっ、早く車を出しなさい!」
「承知致しました」
車は動き出す。揺れは殆どないので、窓から見える景色が動いて初めて気付くのだが。高級車は違うねぇ……。
なんて物思いに耽っていると、視線を感じた。視線を感じたも何も、浅松さんは運転してるのだから久音の視線しか有り得ない訳だが。振り返ると、久音はとても不安そうな表情をしていた。強気も弱気もなく、未来を恐れている訳でもない。それは、今まで僕が見た事のない顔つきであった。一体、久音は何に対して不安になっているのだろう?
「ねぇ、影人」
「……ん?」
「私は、今がとても楽しいです」
黙って聞く事にする。
「好きな人と共に行動をし、仕事が出来て、充実した毎日で。自分の居場所があると実感している今は、私がとても好き」
「それ故に、私は変化を恐れています」
「影人。あなたの事だけではなく、例えば……浅松がお父様に付き添いで世界に旅立ち、日本から去っていくとか、生徒会の新人たちが突如長峰さんたちみたいに辞めていったりしたら」
「また、今すぐでは無くとも。今は仲良くやらせてもらっている友人が、大学に進学したら疎遠になるとか」
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