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久音は静かに聴いている。今はそれが、僕の心に優しかった。
月日は残酷だ。
あれだけ好いていた心の存在は、今の僕の中では小さくなりつつある。自ら近付こうとは出来なくなったし、会っても長くは話さない。僕と心の仲が悪くなった訳じゃない。ただ、変わってるのは僕や心だけではないのだから。変わった物、人たちと付き合ってまた自分もそれに影響されて、変わって。
だから不思議と心とあまり会話しない今の状況を、僕は嫌悪はしていない。受け入れていると言い換えてもいいかもしれん。
「……なんつーか、難しい」
「何がですの?」
「説明するのが。変化ってさ。いい事も嫌な事もあるわけじゃん?」
「……えぇ」
「最適解なんて未熟な僕には分からない。もしかしたら変化の為に行動をして後悔するかもしれない……でも、動かないと永久に物事は変わらない気がするんだ」
「それは……」
分かっていても、久音は一歩踏み出せないと言った様子だった。無理もない。好きな人に嫌われるって事は、恋愛にどっぷり浸かってる人にとっちゃ世界滅亡クラスの恐ろしさなのだから。だけれど、あの時僕は動いた。稚拙な言葉になるだろうけど、精一杯久音に説明してみようと思う。
「久音、怖いのは分かる。僕だっていつも自分に言い訳して誤魔化してきた。あの時の気持ちなんか細かい所は忘れちまったけど、どうせ僕の事だから面倒臭いとか怖いとか後ろ向きな理由だろう。だからお前がビクビクするのも分からんでもない」
「けれど、僕は動いた。例え行動した結果が、過去より仲が悪くなってしまう事があるかもしれないと不安を抱いていても。腹をくくってね。あの時の僕にとっては、心との仲が険悪になる事よりも親密になって欲しかったという気持ちが強かったんだ」
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