終幕と開幕。

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久音は何かを懐かしむようにして僕を見ながら、盛大にため息をついた。その何かが僕にはわからないけれど、それはきっと僕に関係している事なのだろう。久音は、微笑みながら静かに口を開いた。 「私は、貴方の人間らしさが最初はとても嫌いでした。影人ほど感情を剥き出しにして人とコミュニケーションを図ろうとする人は、今までの私の人生には居なかったタイプですわ」 「すぐ暴言を吐くし、人によっての差別は激しいですし。何より私は天条の娘ですから。これまで私に近付いたり、遠巻きに見てる連中の殆どは私に媚び諂い偽物の笑顔を貼り付けるばかり……。子供心にして、大人とはこういうものなのだと学びましたわ」 「【天条久音】を見る人物など居らず、そういう人間は【天条の跡取り娘】の私に接近していたんですの。なればこそ、私を家族や使用人以外で最初に【天条久音】として扱ってくれた鷹には興味を抱いたのかもしれません」 「あまり昔の話をしても仕方ないのでここらで切りますが……私が成長していく十数年の間に、お父様は天条の名を瞬く間に世界の物としました」 「故に、私や姉さんの知名度も鰻上り。金持ちは気難しそうだの、忙しそうだの、散々言われましたわ。懐かしい」 「そんな人生でしたけど、鷹のおかげで友人は数多く居ました。男性となると、親しい友人は鷹と山川だけでしたけど、特に不自由しませんでしたし。そんな折に、私を【天条久音】として見てきた三人目の男性のクラスメイト。それが貴方でしたのよ? 影人」
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