終幕と開幕。

34/55
9896人が本棚に入れています
本棚に追加
/686ページ
毎度毎度、この家を訪れるたびに理解を求められている気がする。別に構わないけどさ。そういう事を教えてくれるというのは、少なからず僕に対して信頼を置いてくれている、のかもしれないし。 今僕らが歩いてるのは地下通路とおぼしき様相を呈した空間である。夏休みの時に久音の別荘で歩いた地下通路に近い。お金持ちは地下が好きなのかね? 「資産家は、いくつもの家をお持ちです。そして裏では、俗に言う汚い事や公表しにくいものなどもやっています。このような機密性の高い事をお話……取引する際には、地下という空間は便利なのですよ。なので天条の家には全て地下があります。いざとなれば避難通路にもなるかもしれませんし、ね」 僕の心を読んでくれたメイド長さんが答えをしてくれる。汚い事ねえ……とても仁さんはそうは見えないのだが、見かけにはよらないって事かな。 「なんというか……意外ですね」 「旦那様は一代でこの天条の名を世界に轟くモノに致しました。その栄光の裏には、旦那様の血の滲むような努力とおぞましき悪、そして圧倒的な運がありました。このノウハウが生かされて、この地下通路があるのです」 「色々突っ込みどころはあるんですけど、とりあえず一つだけ。自分の主人をおぞましいとか言っちゃっていいんですか?」 「いいのです、事実ですから……」 何故か嬉しそうに語るメイド長さんが曲がり角に着くと、壁を弄りだす。すると壁からドアノブが生え、メイド長さんが中へと入っていった。忍者屋敷だなオイ。ぼーっとしてるわけにもいかんので、僕もドアノブを握って中へと入る。 「すまないね、ここまで来てもらって」 その部屋には、笑顔の仁さんがいた。
/686ページ

最初のコメントを投稿しよう!