終幕と開幕。

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叶わない。率直にそう感じた。 ただ、この人の血から久音が生まれてきた事に合点がいく。これだけ真っ直ぐで強いな人だ。久音もよく似ている。 「……久音は、僕に対して実直に向き合ってくれました。応えたいんです。態度で」 だからこそ、僕は包み隠さず答えよう。仁さんだけでなく、久音にも。 「彼女は、人を疑う事に関しては抜きん出ています。それも仕方ない事。次女ながらにして、この天条の家の跡取りとして育ってきた環境下では。本人も僕に言っていました。自身を天条の娘としか見ない人ばかりだった、と」 「耳が痛いね」 「ご冗談を。そんな中で久音は、最初と二番目に自分を天条久音という、個の存在として見てくれたのが、邦岡と虎だったと語ります」 「言い換えれば、それは久音が出会った初めての男性だったに違いない。子供にとって、自分を認めてくれる存在というのはそれだけで支えになるものです。僕もそうでした」 「見てくれはいい。性格は……まあ、今となってはどう表現したらいいかわからないですけど。女からしたら良かったんじゃないですか?」 性格が良いの良いが、都合が良いという意味にも取れなくもないけど。 「何にせよ、久音は最初に彼に惚れた。それは致し方のない事かもしれません」 「そうした引き合わせもあって、久音は素直に育ったんじゃないですか? 邦岡たちの手によって、自分はこれで良いのだと認識した久音は歪んだままに、真っ直ぐに。なればこその、僕が出会った頃の性格がタカビーだったのでは?」
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