終幕と開幕。

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「歪んだまま、真っ直ぐに……か。私は久音を上手く導いてあげられなかったから、何処かで道を踏み外したと考えていたよ」 仁さんが本日初めて、沈んだ表情をする。仕事に家庭に自分にと、いくら超人と言えども全てに目が回る訳じゃない。これは長峰から学んだ事だ。 会社は途方もつかない程の社員がいて、その社員一人一人にも家庭がある。仁さんが会社の業績を伸ばし、あんなにも早いスピードで会社をでかくしていけたのはきっとそういう側面もあったのかもしれない。会社の長として、自分の家や部下の生活をより良い物とするために。自分だって家族をもっと沢山、しっかりと見ていたかったろうに。 「道を間違えてなんかいませんよ。仁さんは。敢えてケチをつけるなら、用意した真っ直ぐな道が斜めになっていただけです」 「そういう考えもあるのか……私には思いつかなかったよ」 「……で、そこに僕が現れた。久音は言ってました。僕が三人目で、当初は敵だと」 「はっはっは!」 追及はせずに思いの丈をぶつけると、仁さんは先ほどの曇り、沈んだ表情を一変させ、晴れやかに笑い出した。ここからはこれまで聞いてきた話による想像などではない。記憶に新しい事である。無理もない。今の僕と久音の関係からは、予想の出来ない間柄なのだから。 「高校生になった直後の話はわかりません。久音は昔軽いイジメチックな物を受けていたと言いますが、高一か中学か、小学か。どれであったかは定かではないです。というより……この辺は仁さんの方が詳しいのでは?」 「後で話そう。今は続けてくれ」
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