終幕と開幕。

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堅い。その意思は要塞の如く堅牢で揺るがない。こうなればそこを突くのはあまりにも厳しい事は、久音で学んだ事で。溜め息を吐いた僕は、通帳には手をつけないでわかりましたとだけ言って、話を進めようと考える。 「それで、久音の過去についてですけど……いいです」 「おや、どうしてかね? 君も思う所あって、久音の事を気にしているのだろう? 知りたい筈だが」 「久音本人に聞こうと思ったからです。本人の居ぬ場でプライバシーに関わる事を訊ねるのは、やっぱり何か違う気がして。何より、僕は他ならぬ久音の口から聞きたいです」 きっぱりと断る。仁さんへの意趣返しも込めて、先ほどの台詞を流用させていただいた。これなら仁さんが元の発言者だし、説得力もある。 「……これは一本取られた!臼井君がそう言うのなら、私は全然構わぬよ。そろそろ久音も帰る頃だし、ちょうど良いんじゃないかね?」 「えっ、もうそんな時間ですか?」 言われて気付き、部屋にある時計を見ると既に七時近くなっていた。僕の判断抜きで久音が新人たちに生徒会業務を残業させるとも思えにくい。一人で残業とかしてない限りは。 「……メイド長さん、浅松さんは今この屋敷ですか?」 「いえ、現在は久音お嬢様の送迎に出ております。残り五分程で帰宅予定となっております」 即座に教えてくれた。有能すぎる、知ってたけど。 そうすると、もう帰ってくるのか……じゃあ都合がいい。もうこのまま話に行っちゃおう。本音の所では、久音に暴露して嫌われないかは怖い所もある。けれど、何度も何度も考えて悩んで決めた事である。逃げずに、真っ直ぐぶつかろう。 「ちなみに臼井君、その通帳は持ち帰りたまえよ?」 「ちぇ、置き去り計画読まれてましたか」
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