終幕と開幕。

44/55
9893人が本棚に入れています
本棚に追加
/686ページ
言われて通帳を懐にしまう。多分僕が何を言っても、仁さんは受け取らないだろう。ここで押し問答をしていては久音に言う機会を逃してしまう。今日のところは引き上げで……。 「これからも、久音をよろしく頼むよ」 念押しのように、頭を下げて仁さんにお願いをされた。昔なら戸惑ったけれど、今なら何の無理もせずにこう言える。これは僕自身が、多少なりとも成長できたという証になり得るだろうか? 「ええ、勿論です」 仁さんのみならず、メイド長さんもにこやかに笑ってくれた。僕にはそれがたまらなく、嬉しい。 ???????? 僕は久音の居室前で待っている。どうやら浅松さんには話が通っているようで、久音にまず自室に向かわせる事を進言してくれたようで。ほんとここの使用人の方々には頭が上がらないし、足を向けて寝てられない。 待つ事に僕は恐れは無かった。だって今はもう、一つの信念の為に動いているのだから。強いて恐れを抱くのであれば、それは久音に真実を話して嫌われるかもしれないかも、という点であったけれど……今は、久音を信じてその恐れを捨てる。 僕みたいな男を好いてくれた彼女を信じて。 黙って待つこと五分弱だろうか? 意外と早く、久音は帰ってきた。僕を見て凄く驚いたような雰囲気を見せて、すぐにこちらに駆け寄ってくる。その表情は、少し不満げであった。
/686ページ

最初のコメントを投稿しよう!