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言われて通帳を懐にしまう。多分僕が何を言っても、仁さんは受け取らないだろう。ここで押し問答をしていては久音に言う機会を逃してしまう。今日のところは引き上げで……。
「これからも、久音をよろしく頼むよ」
念押しのように、頭を下げて仁さんにお願いをされた。昔なら戸惑ったけれど、今なら何の無理もせずにこう言える。これは僕自身が、多少なりとも成長できたという証になり得るだろうか?
「ええ、勿論です」
仁さんのみならず、メイド長さんもにこやかに笑ってくれた。僕にはそれがたまらなく、嬉しい。
????????
僕は久音の居室前で待っている。どうやら浅松さんには話が通っているようで、久音にまず自室に向かわせる事を進言してくれたようで。ほんとここの使用人の方々には頭が上がらないし、足を向けて寝てられない。
待つ事に僕は恐れは無かった。だって今はもう、一つの信念の為に動いているのだから。強いて恐れを抱くのであれば、それは久音に真実を話して嫌われるかもしれないかも、という点であったけれど……今は、久音を信じてその恐れを捨てる。
僕みたいな男を好いてくれた彼女を信じて。
黙って待つこと五分弱だろうか? 意外と早く、久音は帰ってきた。僕を見て凄く驚いたような雰囲気を見せて、すぐにこちらに駆け寄ってくる。その表情は、少し不満げであった。
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