終幕と開幕。

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僕はカップを差し出す。そこまで信じられない、という顔をするなら飲んでみろい。なんて気軽な気持ちで言った事だったが……僕はなんて軽率な発言をしたのだろうと、カップが久音の手に渡った瞬間悔いた。 「……ふふっ、このまま私が飲んだら間接キスですわね? ……ちょっと待ちなさい。なんですのその「しまった」とでも言いたげな後悔の滲み出る表情は」 「……飲む前に気付いてくれて良かったよ。そのカップをテーブルに戻すか、最悪僕の口をつけた所以外から飲むようにしてね」 そう喉から絞り出すように漏れた声は、久音がしたり顔で僕が口をつけた所に口をつけた瞬間溜め息になった。 「ご馳走様ですわ」 「な?苦いだろ?」 「確かに苦目で、少し申し訳ないという気持ちが出来ましたけど……ちょっとは照れるとかしたらどうなんですの?仮にも今や校内でカリスマ的人気を誇る副会長様なのよ?」 「自分で言うか、ったく」 「そうそう、そういう悔しい顔が見たかったんですの」 なんて奴だ全く。苦虫を噛み潰したなんてレベルではない嫌な顔つきをした僕を見たいとは、とんだサディストである。 このまま久音のペースに巻き込まれると長くなりそうなので、僕はさっさと本題へ入るべく、真剣な表情をして久音を見た。彼女もそこは機敏に察する。すぐ様ソファーに座り、僕を見据えた。その面持ちは、何処と無く仁さんに似ている。
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