終幕と開幕。

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久音はじっと僕を見据えている。その眼は何を眺め、観察しているのか。僕という人間の愚かさか、それとも罵倒の台詞の選別か。彼女が語るまではわからない。僕は顔を背けず、久音を見る。久音が僕を見てくれているのに、僕が逸らしてどうすると言うのか。逃げては駄目だ。しっかりと、久音に向き合わなければ。 「……私は、これでも人がどのような思いでいるか、という観察眼には長けています。影人には素直に言いますが、初めて会ったあの時、貴方は本気で私を憎む表情をしてましたわ。違いまして?」 「……違くない。その通りだね」 「それは、お金などの欲が絡むようなしがらみなど無く、ただただ……本当に、私を嫌うという物でした。これまでに天条家である私を僻んできた者も沢山おりましたが、その何れも家柄の違いや環境の差。そういった家の事情で、私は嫌われていた時期もあったのです」 「影人は、そういう他の要素が何も無く……天条久音という存在一つを憎んでいましたわ。私にとっては衝撃的な事でしたのよ?特に負の感情かつ色眼鏡無しで私を見てくれるという事は、初めての経験でした」
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