終幕と開幕。

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……僕は自分を許していない。今回その償いにここを訪れたけども、仮に仁さんにお金を受け取ってもらい、久音に罵倒されふざけるなと怒鳴られたとしても、僕の心は晴れなかっただろう。長い時間をかけて久音へ償いをするつもりだった。 久音は僕なんかを好いてくれて、だからこそ許してくれる。恋は盲目というのは他ならぬ僕がよく分かっている。今回の件は僕が間違いなく悪く、久音は怒るべきで。そこを怒らないのは、久音が僕を好きだから。それで僕が久音の言葉を素直に受け入れ「ありがとう」で済ましてハイ終わり、というのでは……久音にまた甘えてしまう事になる。 僕はこうなる事は望んでいない。 これでは久音の隣に立てない。 久音の優しさを貰ってるだけでは、対等だと思えないのだ。 「……久音がそう言ってくれるのはありがたい。本当にありがとう。けど、僕は自分を……」 許せそうにない、と言いかけて止まる。自分の為、彼女の為に。僕は自身を変えなくてはと思い、今この場に居る。しかし、ここでそう言ったら今迄と何も変わらない気がしたのだ。 「……簡単には許したくない。君の隣に立てる立派な男になる為に」 「…………あら、では一つだけ罪の清算の為に、私の『お願い』を聞いてくださらない?」
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