終幕と開幕。

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  久音はたまに見られる「しめた」といった表情で一つの提案を寄こしてきた。僕としてはそれが久音が変わるきっかけとなるのならば、どんな内容でも甘んじて受け入れようとした。 そのお願いが、僕に、久音に。どのような変化を及ぼそうとも。僕らが恐れて、悩んで、迷って止まなかった変化。今の僕らはそれを受け入れようとしている。そんな久音の提案だからこそ僕は―― 「それが、久音に必要な事ならばなんでも引き受けるよ」  と話す。僕が立派になるとか、互いの為になる事とか色々言葉はあったけれども。それは僕自身がこれからの行動と結果で示すものだ。このお願いとはなんら関係がない。  ただ、久音に必要な事で彼女が変わっていける……日々の人生を謳歌できると言うのなら。喜んでその仕事を担おうと考えたのだ。けれども、久音のお願いは。  僕にとって想定外の内容であった。 「影人は私が許そうとも、自分自身でまだ許していない。もうそこを我慢して許せとは申しません。けれども、私はいつもの憎まれ口を叩いている貴方と共に歩み、成長していきたいのです」 「なれば貴方が過ちを犯したなら私が正します。逆に私が道を踏み外した時、貴方が支えてくだされば、私は必ず立ち直る自信があります。お互いが良い事をしたら、お互いがそこから学び人として精進する」 「今の私が変わる為には、影人。自然体の貴方が必要なのです。これからの新しい日々を……出来る限り一緒に過ごしてくださらない?」  その内容を自身で反芻する。今更わかりにくく、改まった告白とは考えにくい。それに――さっき仁さんと話して思ったが、この家の人はまっすぐな人ばかりだ。なら久音もきっとそのままの意味で伝えてるに違いない。それが久音にとって必要なものなら。 「わかりましたよ、お嬢様。今後の新しい毎日をよろしくお願いします」  喜んで受け入れよう。      ★☆★☆★  二日後の月曜日。もうすぐ冬休みに入るかという時期の早朝に、僕は家を出て学校ではなく久音の家へと向かっていた。先日の事があったのもそうだが、久音に会話の主導権を握られたのが起因であった。新しい毎日と口にするのは簡単だが、実際どこから変えていけばいいのか。家で昨夜一人悩んでいた時に、久音からメールが届いていたのだ。 【明日から一緒に登校しますわよ! 徒歩で!】
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