終幕と開幕。

54/55
前へ
/686ページ
次へ
 車で行った方が安全かつ楽なのにこのお嬢様と来たらこれである。  と内心考えたものの、自分を変えるという困難に立ち向かうならこれまでの自分と同じ態度でいるのも良くないかなと思い快諾したのだけれど……。 「時間ちょうどですわね、遅れたらどうするおつもりでしたの?」  目の前の久音にいきなり指摘されげんなりした。 「ちょうどならセーフやん」 「よくありません! ミスのリスクを可能な限り減らすのは当然でしょう! 五分前行動という理念がそのいい例ではなくて?」 「経過や過程などどうでもよい、結果だけが全てだってどっかの偉い人が言ってたからセーフ」 「現実はそうでも世間の風習はそうはいきません。確かにおおよそは結果が良ければいいですけれど、周りの人間が皆そのような眼で見るとは言い切れないのです」 「……確かに無駄に敵を作るのは得策と言えないな。まいった」 「では今後改めてくださる?」 「1アウトだからチェンジまでセーフ」 「そう言いつつ真剣に今後直そうと考える影人は好きですわ」 「……バレると恥ずかしいから勘弁」  羞恥から顔を背けると、隣からクスクスと笑い声がした。くそ、一本とられた。  気付くと学校まであと少しまでの距離となり、すれ違う学生たちから挨拶される事が増える。その内容に「今日から登校も一緒にしたんですか?」とオマケの質問がつくのが殆どであった。 「ほら。やっぱり皆不思議がってるぞ。答えてあげれば?」  僕としては不服なワケではないが、実のところ僕個人もそれは思っていた。確かに変わろうとはするが、こういう些細な所から改善していくのか? と疑問符はあったのだ。久音の頭なら最小の行動で最良の結果を導き出せる筈なのに、と。  しかし久音は……至極単純な回答を、僕に伝えてきた。 「いきなり変わると驚く方々もいるでしょうけど……私は、皆と同じ視線に立ち、日々を楽しく過ごそうと決めたのです。それには――大切な貴方が必要なのですよ、影人」
/686ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9897人が本棚に入れています
本棚に追加