ファーストインプレッション

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 ここから先に取るべき行動は、パターンには組み込まれていない。  しかし、主人は私に声をかけ続けている。    他に出来る事も無い。私はその言葉の意味を解そうと試みた。  ――ゆるしてくれ――  意味が分からない。どういう意味の命令なのだろう?  主人は、私に何をさせようとしているのだろう?  何も見えず、何も触れない今の私にとって、その命令が世界の全てだ。  ○○してくれ、と命令されたならば、私はそれをしなければならない。  ゆる、す? それは、一体どういう意味だろうか?  私は、一体どのようにすればその命令を実行できるのだろうか?  ――きみは、もともとふつうのおんなのこだった――  ――○○だった。それは、過去形の言葉。言葉通りに解せば、決して命令の言葉では無いが――主人の口から、命令以外の音が出る訳がない。  恐らく、その言葉は暗号なのだ。“私”の破損に伴ない、解読コードの呼び出しが正常に働いていないのだ。  ……運良く回復まで時間が稼げた場合に備えて、取り敢えず脳内のメモリへ書き込んでおく。  ――きみをそうしてしまったのは、ほかならぬわたしだ――  今一意味は解せないが……しかし、機械的に書き込む。  回復さえすれば、その命令を理解して実行へ移すことができるから。  ――ほんとうならば、かわいいふくをきて、むじゃきにわらって――  ……言葉が長い。その様な暗号はあっただろうか?  予め行動パターンが緻密に組まれている私に対して、それほど長い暗号はいらない。    ――いつも、じっくりみていなかったけれど――  ――きみは、なくなったわたしのむすめにそっくりだな――    果たして、本当に暗号なのだろうか? しかし、主人は命令以外の言葉を発さない。  私は主人を信じて、ただ主人の言葉を記録する。  ――徐々にだが、視界が回復してきた。視力だけならば、そう遠くない内に全快するだろう。
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