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「翔羽くん」
「…はい」
「キミは以前、
私に尋ねたことがあったね」
彼を苦しめてるものは、何?
いつか、取り乱した俺の。
絞り出すように放った言葉を
センセーは口にした。
何が起こっているのか掴めない現実に
震えて、あの時。
ぶつけるように投げた俺の言葉。
その答えは今も見つからず。
それが故にこんなに苦しんで、
ここにまた流れ着いた。
『彼を苦しめてるものは、何?』
この混沌とした世界の
全ての根源。
「答えは見つかったかい?」
センセーは俺をじっと見る。
俺はただ
項垂れた頭を振るしかなかった。
「答えは初めから存在など
していないのかもしれない」
まるで独り言のような、
そんな呟きだった。
たぶん。
迷って、寄り道して、遠回りして。
そうしてはじめて
その先に答えは生まれる。
そうしなくちゃ
答えは生まれないんだ。
正解なんてないんだから
どんなことも全部
間違いじゃない。
全部。
してきたこと全部。
「必要なんだよ」
瞼の端で。
楝の涙が床に
ぽつりと落ちるのを見た。
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