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カットの声が撮影の終わりを告げれば、全てをシャットダウン、シャットアウト。
無愛想に振舞う訳じゃない。その代り愛想も振り撒かない。何もしない。
それで十分、周りは勘付くだろう。
何処かよそよそしく、いつもよりほんの数歩下がったところから、差障りの無い距離を保ったまま無難な挨拶を交わして通り過ぎていく。
機嫌が悪いんだと思われても、もういいやと思っていた。
周囲に壁を作って、今は他の何も考えたくはなかったから。
たまにはさ、俺だってやさぐれンだ。
仕事帰りの缶コーヒー、いつのもの習慣。
喫煙所に立ち寄ってほの白い光を放つ自販機の前に立つ。
「トワクン、」
背後から声がして、いつかのデジャブ。
オレ、また拉致られんの?
「またかよ、」
「うぉっ、ブラック~」
面倒そうに聞こえたのか、人聞き悪いなぁって力無く笑いながら楝が近づいてくる。
「俺じゃねぇよ、今日はリーダー。」
「え?」
「車出せってサ、オレ、運転手。」
サトリクンが?
どーゆーこどだ?
訳も分からないまま、踵を返した楝についてゆくと駐車場、見覚えのある楝の車の後部座席に慧里は寝ていた。
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