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時折挟まれる慧里の道案内どおりに、夜中の国道を走る。
やがて車は本線から外れた静かな通りへと吸い込まれていった。
「あ、れ…ここ…」
細い路地を曲がったところで翔羽はそこに知っている景色が広がっていることに気づいた。
「サトリクン、これってもしかして…」
「んぁ、びょーいん」
やっぱり…。
「え、病院ってあのボロ医者のこと?」
え、今から行くの?
その車窓に気付いて居なかった楝も、運転中のハンドル越しにチラリとフロントの時計を見て静かに驚きの声をあげる。
慧里と言えば、んー、と呑気な声を発するばかりで。
「何しに行くンだよ、
しかもこんな時間に」
「んー?」
「だからなんで行く必要があるの?
葵が乗ってるわけじゃないでしょ。」
「んー」
「んー、って」
「オッサンのおチャ、飲みてぇなって…」
ウマかったしって、は?何言ってんだ?
寝ぼけてんのか?気が狂ったのか?
勘弁してよ、サトリくん。
俺さぁ、疲れてんだけど。
帰りたいし、こんなんだったら葵ンとこ行ったほうがいーじゃん。
いつもは癒されるばかりの慧里に、なんだかだんだん腹が立ってきた。
「おっさんって、先生でしょ、先生!」
声を強くする翔羽に、楝が、そこ?と笑って更に苛立ちがつのっていく。
「だいったい、お茶って、
病院は喫茶店じゃないんだよっ」
時間だってもう遅いんだよ。
迷惑でしょうがっ。
わかってんの?サトリくんっ。
そうやって振り向いた後部シートには、相当不機嫌オーラを身に纏った慧里。
だらしなくシートに体を預けて、上目づかいに口を尖らせてこちらを睨んでいる。
「とわくん、うるセェー、」
しーんと静まりかえる車内。
エンジン音も止まった。
「つ、着いたけど…」
楝が遠慮がちに呟いて。
「だまって、こいっ」
バタンっとドアを閉めて、
慧里はさっさと病院へ入ってしまった。
隣でくくっと笑いを堪えている楝。
ぎゃ、逆ギレですか、サトリクン…。
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