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「なぁ、オッサン…」
ふんわりと闇夜に浮かぶオレンジの月のようなまどろみに、寄り添うようなささやかな慧里の呟き。
湯呑の中の茶葉がふらっと揺れた。
ふと、心にもなく口をついて出た言葉のような、だけど、なんだか強い意志を持ったふうにも聴こえる不思議なその声に。
思わず彼の顔を見ると、その瞳の奥が深い深い天涯のように、何かを強く抱いているように見えて。
はっとした。
「…どーして、
こうなっちまったんだろ、」
また、茶葉が揺れた。
どうして。
それは俺らが皆、抱いていた感情で。
俺らが皆、その想いの重さに心を潰されそうになっていた。
そして。
同時にその想いを重石に、自分の中で暴れ狂う感情に必死に蓋をしていたんだ。
その言葉を口にしてしまったら、最後。
全てが流れ出し、溢れた感情に足を掬われ立てなくてってしまう。
そう思っていた。
だから言えなくて。
言えなくて、苦しくて。
だけど本当は、聞きたかった。
ただ唯一。
俺等はそれを、
口にしたかったんだ。ずっと。
----------どうして?
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