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慧里は手にした湯呑を見据えて、
ただじっと動かない。
センセーは同じように湯呑を掌に抱いて、すうっと息を吐いた。
「アオイくんはね。」
敏感で、
臆病で、
優しくて。
周囲との間に生まれる
些細な違和感に気付いてしまうから。
「ほんの少し、生きにくいね、」
静けさを漂うセンセーの声がいつまでもそこを浮遊して、さざ波のように何度も何度も押し寄せた。
俺達はそれに溺れるように息が出来ない。
何も言えない。
おもむろに立ち上がったセンセーが、
もう一度俺達の湯呑にお茶を注いだ。
ぽってりと丸い湯呑。
なめらかな側面を滑って
注がれた緑の透明が波打つ。
ゆらゆら揺れる水面が、いつまでも消えないセンセーの声と重なって、どうしようもない現実に意識が遠退きそうになった。
「ヒトは何故、
落ち込んだ時に俯くのだと思う?」
ふいに投げ掛けられる問い。
その意図は
どこにあるのだろう。
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