37.混沌に射すもの。

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慧里は手にした湯呑を見据えて、 ただじっと動かない。 センセーは同じように湯呑を掌に抱いて、すうっと息を吐いた。 「アオイくんはね。」 敏感で、 臆病で、 優しくて。 周囲との間に生まれる 些細な違和感に気付いてしまうから。 「ほんの少し、生きにくいね、」 静けさを漂うセンセーの声がいつまでもそこを浮遊して、さざ波のように何度も何度も押し寄せた。 俺達はそれに溺れるように息が出来ない。 何も言えない。 おもむろに立ち上がったセンセーが、 もう一度俺達の湯呑にお茶を注いだ。 ぽってりと丸い湯呑。 なめらかな側面を滑って 注がれた緑の透明が波打つ。 ゆらゆら揺れる水面が、いつまでも消えないセンセーの声と重なって、どうしようもない現実に意識が遠退きそうになった。 「ヒトは何故、  落ち込んだ時に俯くのだと思う?」 ふいに投げ掛けられる問い。 その意図は どこにあるのだろう。 .
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