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何気ない顔でいたずらを仕かけてくる子どもらしいところがあった。遠くを見つめて急に大人の男を思わせる雰囲気も持っていた。お母さん思いの優しいところや、兄にライバル意識を抱いている幼いところ。
そのどれもを私が誰より近くで見つめていた。そして、そのどれもが彼全てなのだということを私が一番知っていた。
「友達」という間柄では確かに誰よりも近かった。なのに、私が「異性」としての彼を意識しはじめたその日から、どこかずっと遠くに行ってしまったような気がした。
「おはよう」
「おう、おはよ」
「ばいばい」
「ん、気をつけてな」
教室で、廊下で、靴箱で、校門で。
何も知らない彼は、昨日までと少しも変わらない優しさを持って私に挨拶をしてくれる。私の恋心なんてきっと微塵も気づいちゃいないだろう。
今までと変わらないやり取りが嬉しくて、悲しかった。今まで通りだからこそ愛おしくて、だからこそ切なかった。
これが恋なのかと実感したとき、私は自分が自分じゃなくなるような気さえした。
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