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桜は、いけない。
花が咲いていても咲いていなくても、どこからともなく思い出を連れて来ては引きずり込んでいく。
先程まではしゃいでいた友達の姿はもう疎らで、お母さんに手を引かれた子が校門をバックに写真を撮っていた。気恥ずかしそうに手を後ろで組んで、それを咎められては渋々といった様子で気をつけをする。パシャリと音がした後、「うまく撮れた?」と駆け寄って行く瞬間、その子のスカートがふわりと揺れて桜の花びらに見えた。
私のお母さんとお父さんは、式が終わると写真を数枚だけ撮って帰っていった。
「あなたは感傷に浸るくせがあるから、ゆっくりしていらっしゃい。お昼ご飯の準備をして待ってるから」
実際に私は感傷に浸っている以外の何物でもないから、見破られているんだなと小さくため息をつく。
「そろそろ帰らなくちゃ……」
私は呟きながら鞄を肩へと提げなおす。
彼を捜すことはしない。式の後、男友達と笑いながら校舎の中へ思い出巡りに行った彼を見たのが最後だ。
あの校舎の中で彼と思い出について語れるほど、私はまだ強くはないから。
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