『第1話:蛮勇の王』

2/9
96人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
天から降り注ぎし陽光は絹よりも暖かく柔らかであり、その風にはユーフラテスの清涼な川の匂いが溶け込んでいた。一年中温暖で過ごしやすい“ウルク王朝”ではあったものの、その日はとりわけ心地よい気候であった。 メソポタミア。 チグリス川とユーフラテス川に挟まれたその平野部は肥沃な大地に恵まれ、動物たちは活き活きと躍動し、草花らは存分にその芳香を漂わせていた。そして無論、人間たちの生活にも、その豊穣な環境は多大な恩恵を与えたのであった。 天神アヌ。水神エア。風神エンリル。そしてウルク王朝を見守る都市女神イシュタル。数多の神々に見守られ、メソポタミアに根をおろしたウルク王朝は、この地上にてめざましい発展を遂げているのであった。 ウルク王朝。石と砂で築かれた、大なり小なりの正方形に近い家屋が建ち並ぶその都市には、多くの人々が行き交っている。風には適度な水分が混ざっており、乾燥し過ぎることも肌にまとわりつくこともなく、緩やかに流れている。空に浮かぶ太陽はちょうど頭のてっぺんに位置しており、その陽光をあますことなく地上に降り注いでいる。暖かい陽の光に、頬を撫でる柔らかい風、そしてほのかに流れていく清涼な湿気―心なしか、行き交う人々の脚もどこか軽やかであり、まるで踊るような足取りである。その光景はまるで、平和を謳歌する人々を体現するかのような光景であった。 『ふたつの河のあいだ』と称されるメソポタミア、そこに生じた都市は人類史において最も古いと云われる文明である。しかし―今日から数えて5000年前か6000年前かは定かではないが、少なからず人々は当時から今日に至るまで、根底を同とする生活の営みを続けているのは事実なのであった。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!