序章 決別の刻

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おかしい。 体が動かない。 倒れたままの姿勢で腰を動かそうとしても力が入らない。 ツァークがこれ程までに体力を奪ったか。 いや、自分はこれ程までに非力だったか。 あるいは精神的な問題か。 いずれにしても自分は弱い。当然だと思う。 なぜなら自分は死に物狂いの努力をして来なかったのだから。 「く・・・そ・・・」 一歩一歩メビウスが近付くにつれ、目に見える冷気が体を包む。パキパキと周囲を凍らせる冷気の化け物が、死の宣告を開始する。 「今度こそ終わりだな」 「ツァーク・・・、僕は・・・」 ガチガチと歯が震える。寒さによって体温が奪われ体の自由を失ってゆく。 「俺はこれから虎ノ国へ亡命するわけだが・・・、まぁあの世で後世の行き先でも見守っていてくれ」 「う・・・あ・・・う・・・」 ついにメビウスの絶対零度領域に突入する。それでなくても冷気によって体の半分が動作不可能なのだ、もはや逃げ伸びる術など存在しない。 足が凍り四肢が凍り上半身が凍り。 意識までもが凍り付いた。 「・・・・・・急がねば」 ヴィータを連れ去って黒馬を走らせるツァーク。その先には一体何が待っているのだろうか。 誰も知らない。
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