序章 決別の刻

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メビウスの顔には表示というものが無い。悪意すらも感じない。 メビウスはかつての【大崩壊】を引き起こした幻獣の一員だ。 その化け物を倒そうなどまず100%不可能。 もし倒せてしまったのなら、自分は化け物以上の化け物だ。 だから倒すのではなく、まず第一に逃亡する前提で作戦を立ててゆく。 まるで鎖に繋がれた子犬のような心境のサルカンに、メビウスはようやく行動を示した。 それは敵を殲滅する攻撃でもあったが。 「ッ!!」 メビウスの右手から放たれる、螺旋状の冷気魔法。 今後10年分の命を削るような気持ちでサルカンはその攻撃を避ける。 「馬鹿げている・・・」 そのたった一度の攻撃で改めて幻獣の力を思い知らされる。 まず、魔法にこめられる魔力の質がまるで違う。 相手は人間ではなく幻獣という化け物だ。 その身に宿す【神秘の力】=テレパスの量も段違いに違う。 すなわち、人間が扱う魔法と幻獣の扱うそれとでは次元が違うわけだ。 そもそも、こうして幻獣をどうにかしようという思考そのものが間違っているといえる。 サルカンの顔に笑みが零れる。 幻獣を相手にしてまでも旧友を追いかけようとする自分に。
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