2人が本棚に入れています
本棚に追加
それから数日後、俺は父の田舎、I県のK地方にある村へと向かった。
観光開発や都市開発とは無縁な農村である。
大学生とは言え、二十歳を向かえ三年となれば、それなりに単位に余裕がある。
俺は長い休みの半分程を、この農村で過ごすつもりだ。
俺は、叔父夫妻が居るがどうにも苦手だし、祖父母も他界している事を理由に、近くの民宿にでも泊まるつもりで居た。
だが叔母に電話で話すと思った以上に歓迎され、結局滞在中は部屋を一室貸して頂く運びとなった。
「突然、押しかけて来てすいません……」
「なぁに、気にしないのぉ! それに昔は、毎年来てたでしょう?」
叔母さんは豪快に笑うと、冷たいお茶を運んで来てくれた。
新幹線、電車、バスを乗り継ぎやっとの思いでたどり着くと、叔母は居間に案内してくれたのだった。
冷たいお茶を飲みながら、世間話に興じる事にした。
叔父、叔母の息子のシンジが大学から殆ど顔を見せない事、叔父さんが盆栽を趣味に始めた等、他愛のない話しをしていると、叔父が帰って来た。
「おぅ! タケでねぇか? まぁゆっくりしてけや」
俺は叔父に挨拶をする。
「お久しぶりです。ご無沙汰してしまい申し訳ないです」
「まぁ仕方ないだろう。あんな事がありゃあなぁ」
そこまでいうと、叔母が口を挟む。
「あんた!」
叔父は済まなそうな顔に変わったので、俺は急いで取り繕う。
「大丈夫ですよ。もうふっ切れましたし、気にしないで下さい」
「ホントにごめんねぇ。この人、でりかしぃってもんが無いんだよ」
ははは……。と皆笑ってしまった。
叔母の口からそんな単語が出て来るとは露程も思いもしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!