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「…明津(あくつ)。お前、五年生やるつもりか」
青司の態度と着崩した制服を見、担任教師である桂木は溜め息をついた。
生徒指導室という名の物置教室には、季節の装飾などが放り込まれたダンボールが山となって積まれており、埃っぽいにおいが漂っている。
「…」
青司は答えず、憮然とした態度で威圧的な姿勢を崩さない。
「お前、いい加減授業に出て単位取らないと…」
「退学、だろ」
青司は担任の言いたいことは分かっていた。
徐々にたまる苛々を抑えきれず、ガン、と向かい合わされた机を蹴る。
分かっているというのに、いちいち言うなと担任をじろりと睨み付ける。だが一年の時からの担任は青司の睨みも脅しも通用しない。脂の浮いた額に深く刻まれたシワは、青司の入学当初と比べるとさらに深い。
「明津の叔父さんから許可はもらっちゃいるが…。本当にこれからちゃんと授業に出ると約束できるなら、五年に上がらせるが」
「…来るっつーの」
叔父夫婦は、青司を代わりに育ててくれている。
青司は10歳の時、叔父夫婦に引き取られていた。
「本当か」
「しつけえんだよ!」
聞き飽きた台詞に、ほぼ無意識に机に叩きつけようとした拳は、担任のもうひとつの台詞の後に止まった。
「卒業、できなくなっても?」
「…」
青司は担任のその一言を聞くと、荒い息のまま黙って生徒指導室を出た。
入れたての刺青がワイシャツの下の右肩甲骨でぐずぐす疼く。
夕陽で赤く染まった鉄筋コンクリートの廊下に、ゆるゆると闇が迫っていた。
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